Q.当社は大阪で食品加工業を営んでいます。採用のチラシをみて外国人が応募してきたので採用しましたが、この外国人の労働者が、賃金を支払う直前に不法就労者であることが発覚しました。当社は当初は本人が不法就労ではないという話を信じて採用したのですが、この場合、不法就労者の外国人に賃金を支払わないと違法になるのでしょうか。また逆にもしも不法就労の外国人に賃金を支払った場合には罰則はないでしょうか?

 

A.結論から言うと、不法就労であるかという問題と、賃金支払いの必要性については、別の問題です。

不法就労であるか否かに関わりなく、労働者に労働をさせた場合には、賃金の支払義務が発生し、原則として賃金を全額支払う必要があります。不法就労者でも賃金の支払義務がなくなることはありません。

この場合の問題点につき、以下解説します。

 

①不法就労助長罪との関係
不法就労者への賃金支払で心配されているのは、不法就労者と知っていながら賃金を支給することが入国管理法73条の2に定める不法就労助長罪にあたることになり、罰則の適用を受けるかどうかということだと思います。同罪については、同罪の適用については、ご質問のとおり不法就労者と知らずに雇い入れて間もなく判明した場合には、悪質性の程度は低いので、すぐに解雇すれば問題にはならないと思います。

勿論、今回応募してきた外国人は法律上雇用することが許されない労働者となりますので、今後は雇い続けることはできません。

 

 

②労働基準法との関係
今回のようなケースで、賃金を支払わない場合に労働基準法違反になるのでしょうか。

結論的には、一度発生した賃金の支払義務は、外国人労働者が不法就労者であることを理由に逃れることはできず、賃金を支払わない場合には、原則として労働基準法24条違反となります。

もっとも、外国人労働者が入国管理局の摘発を恐れて行方知れずになり、実質的に支払が不可能となる場合もあります。もしも、第三者が「本人の代理であるから支払って欲しい。」などと要求してきても、使者に対する支払は同居の親族などに限られていますので、明らかに間違いない場合以外には支払うことはできないと思います。賃金の支払義務を怠ったとならないようにするには、法務局への供託などをして、賃金を支払ったと同様の効果を発生させる必要があります。

 

3 具体的な不法就労トラブル例

具体的なトラブルとして、ある製造業の現場で働いていた中国人労働者に対する賃金未払の例があります。これは、当初は労働者本人から、「私は、中国の残留孤児であり、日本人の子供であるから在留資格もあり、就労も問題なく適法である。」という言葉を信じて採用したそうです。

しかし、その後会社は不法就労であることを知り、「生活に困っていたので、善意で採用したのにだまされた」と怒り、賃金の支払を拒否したものです。

労働者は電話で再三、支払を要求しましたが、会社側はこれを拒み続けました。その結果、労働者は一人でも加入できる労働組合に相談をし、その場で組合員となりました。そして、労働組合側から「当組合員の未払賃金に関して団体交渉を要求する。」と連絡があり、労働組合が労働者の代理として会社との団体交渉を要求してきた例があります。結論としては、未払賃金などを支払うことで決着がつきました。

この他に、外国人労働者が未払賃金について、労働基準監督署へ相談に行き、会社に対して支払をするよう行政指導があったという亊例も多くあります。

 

4 まとめ

会社が不法就労者に対して賃金の支給をするという事は、2つの意味があります。

それは、①「賃金を払うと不法就労を助長したと思われる危険性もあり責任を問われないか?」という問題と②「賃金未払のままでは労働基準法に違反するのではないか?」という問題とで悩むところです。

多くの場合は、「ウソをついて不法就労してうちの会社に迷惑をかけた以上、賃金なんて払わん!」となるケースが多いと思います。

しかし、労働基準監督署では、外国人不法就労者が救済を求めた場合には、まず、賃金未払いを解決することを優先し、その上で入国管理局に通報するか否かを判断しています。

この点を考慮すると、今まで述べてきたように、残念ながら、未払い賃金については不法就労者であることを理由に支払いを拒否することはできないと考えます。

このようなケースの場合、外国人も生きるために必死ですから、どのような手を使ってでも賃金の請求をしてくることが少なくありません。

ですから、雇用の際に、本人の言葉だけでなく、在留カードやパスポート等の確認を怠らないようにしてください。