Q.2012年8月15日、尖閣諸島の魚釣島に中国の活動家が不法入国(不法上陸)したとのニュースを見ました。一般に外国人が不法入国で逮捕された場合、その後の手続きはどうなるのですか?
A.これは入管法が非常に特殊なため、一般の刑事事件の手続きとは異なります。
まず、通常警察官が犯罪の被疑者を逮捕した場合は速やかに取り調べを行い48時間以内に検察に送られます(刑事訴訟法203条1項)。
しかし入管法には刑事訴訟法の特例として収容令書が発付され、且つ、不法入国、不法滞在、不法就労以外の罪を犯した嫌疑のないときに限り、検察官ではなく直接入国警備官に引き渡すことができる旨規定されています(入管法65条)。但し身体を拘束したときから48時間以内という制約があります。これにより不法入国した外国人は刑事裁判を経ることなく入国管理局において退去強制手続が開始されます。
ですので今回の場合も単に尖閣諸島に不法入国(不法上陸)下だけで他の犯罪に該当するものがない場合、この特例が適用され、強制退去処分となるケースであると思われます。
しかし「引渡すことができる」となっている以上、この特例を適用するかどうかの判断は警察(司法警察員)に委ねられており、必ず適用されるものではありません。適用されない理由としては以下のようなものが考えられます。
1.パスポートを所持しておらず本人確認が取れない
→逮捕から48時間以内に国籍、氏名、住所等が明らかにならないと特例は適用しないのが一般的です。活動家らがパスポートを持っていたのか定かではありませんが、パスポートがなければ中国政府への確認が必要となるでしょう。
2.過去にも退去強制処分歴がある
→違反を繰り返す者にはより重い刑罰が課される可能性があり、刑事訴訟手続を省略するわけにはいかないからです。今回の件においても、本人確認が取れ次第、退去強制処分歴を調査することになります。
3.48時間以内に入国管理局側の受入れ態勢が整わない
→金曜日や土曜日に逮捕された場合にこのようなことが起こります。冗談みたいな話ですが、入国警備官(および入国審査官)の出勤状況に左右されるわけです。今回は平日ですので、これはないでしょう。
4.逮捕された所轄署において入管法の理解が不十分
→外国人の多い都市部では積極的に特例を活用することで事務の軽減を図っており、運用において定着している感があります。他の道府県についても先ごろ警察庁の通達により全国的に特例の活用を積極化するとされましたが、現実は警察官個人レベルでの入管法の理解不足、あるいは地方入国管理局側の人員不足(怠慢もありますが)等により統一された運用とはなっていないようです。ただ、尖閣の問題はミスしたら国民から大バッシングを受けるでしょうから、入管法の理解が不十分で手続きミスをすることはないと信じますが・・・・・・・。
今回の件については、結局、活動家らが過去に不法滞在歴があったり、過去に犯罪歴がない限り、入管に送って強制退去処分で本国に強制送還する、という流れになる可能性が高いと思います。
ただ、国民の一般的な感情からすれば、「不法入国で何の刑罰も受けないの???」という感じでしょうから、正式裁判をして有罪判決にしてほしい、という声は高まりそうです。
国際紛争に発展しかねないこの問題を、政治的にどう解決するのか、外交手腕が問われる問題であることは間違いありません。